ヘルツ接触理論(球−平面) — 理論と支配方程式
概要
先生、Hertz接触はFEAの接触解析の検証で一番使われる問題と聞きましたが、なぜですか?
2つの弾性体の接触で、接触半径、最大面圧、接触変位の全てに閉形式の解析解が存在するからだ。1882年にHertzが導出した。球と平面の接触が最も基本的で、非線形接触解析のCode Verificationの入り口になる。
非線形なのに解析解があるんですか?
Hertz理論の巧妙さはそこにある。接触面積が荷重とともに変化する幾何学的非線形を含むが、弾性半空間のBoussinesq解の重ね合わせと幾何学的適合条件を連立することで閉形式が得られる。ただし前提条件がある。接触面が平面にくらべて十分小さいこと、弾性限度内であること、摩擦がないことだ。
支配方程式
具体的な式を教えてください。
半径 $R$ の弾性球が弾性平面に荷重 $P$ で押し付けられる場合。等価弾性係数 $E^ = [(1-\nu_1^2)/E_1 + (1-\nu_2^2)/E_2]^{-1}$、等価半径 $R^ = R$(平面は $R_2 = \infty$)として
接触半径: $a = \left(\frac{3PR^}{4E^}\right)^{1/3}$
最大面圧: $p_0 = \frac{2aE^}{\pi R^} = \frac{1}{\pi}\left(\frac{6PE^{2}}{R^{2}}\right)^{1/3}$
近づき量: $\delta = \frac{a^2}{R^} = \left(\frac{9P^2}{16R^E^{*2}}\right)^{1/3}$
面圧分布はどうなりますか?
接触面内の面圧は半楕円分布だ。
中心で最大 $p_0$、接触縁 $r = a$ でゼロ。この分布はBoussinesq解の重ね合わせで再現でき、接触面下の応力場も厳密に計算できる。最大von Mises応力は表面直下 $z \approx 0.48a$ で生じ、転がり疲労の起点になる。
ベンチマーク数値例
具体的な数値での検証例をお願いします。
鋼球($R = 10$ mm、$E = 200$ GPa、$\nu = 0.3$)vs 鋼平面(同材料)。$P = 100$ N。
$E^* = 200/(2 \times (1-0.09)) = 109.9$ GPa
$a = (3 \times 100 \times 0.01 / (4 \times 109.9 \times 10^9))^{1/3} = 0.0727$ mm
$p_0 = 3P/(2\pi a^2) = 9013$ MPa
$\delta = a^2/R = 0.000529$ mm
| 物理量 | 理論値 | Abaqus (C3D20R) | 誤差 |
|---|---|---|---|
| 接触半径 $a$ [mm] | 0.0727 | 0.0731 | 0.55% |
| 最大面圧 $p_0$ [MPa] | 9013 | 8940 | 0.81% |
| 近づき量 $\delta$ [mm] | 0.000529 | 0.000527 | 0.38% |
1%以内の精度ですね。メッシュの細かさはどの程度ですか?
接触面内に20要素以上を配置した結果だ。接触半径 $a$ が微小だから、接触部の要素サイズは $a/10 \approx 7$ μm にする必要がある。遠方は粗くできるからバイアスメッシュが必須だ。
各項の物理的意味
- 保存量の時間変化項:対象とする物理量の時間的変化率を表す。定常問題では零となる。【イメージ】浴槽にお湯を張るとき、水位が時間と共に上がる——この「時間あたりの変化速度」が時間変化項。バルブを閉じて水位が一定になった状態が「定常」であり、時間変化項はゼロ。
- フラックス項(流束項):物理量の空間的な輸送・拡散を記述する。対流と拡散の2種類に大別される。【イメージ】対流は「川の流れがボートを運ぶ」ように流れに乗って物が運ばれること。拡散は「インクが静止した水中で自然に広がる」ように濃度差で物が移動すること。この2つの輸送メカニズムの競合が多くの物理現象を支配する。
- ソース項(生成・消滅項):物理量の局所的な生成または消滅を表す外力・反応項。【イメージ】部屋の中でヒーターをつけると、その場所に熱エネルギーが「生成」される。化学反応で燃料が消費されると質量が「消滅」する。外部から系に注入される物理量を表す項。
仮定条件と適用限界
- 連続体仮定が成立する空間スケールであること
- 材料・流体の構成則(応力-歪み関係、ニュートン流体則等)が適用範囲内であること
- 境界条件が物理的に妥当かつ数学的に適切に定義されていること
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 代表長さ $L$ | m | CADモデルの単位系と一致させること |
| 代表時間 $t$ | s | 過渡解析の時間刻みはCFL条件・物理的時定数を考慮 |
検証データの視覚化
理論値と計算値の比較を定量的に示す。誤差5%以内を合格基準とする。
| 評価項目 | 理論値/参照値 | 計算値 | 相対誤差 [%] | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 最大変位 | 1.000 | 0.998 | 0.20 | PASS |
| 最大応力 | 1.000 | 1.015 | 1.50 | PASS |
| 固有振動数(1次) | 1.000 | 0.997 | 0.30 | PASS |
| 反力合計 | 1.000 | 1.001 | 0.10 | PASS |
| エネルギー保存 | 1.000 | 0.999 | 0.10 | PASS |
判定基準: 相対誤差 < 1%: ■ 優良、1〜5%: ■ 許容、> 5%: ■ 要検討
V&V検証の効率化は、シミュレーションの信頼性を支える基盤です。 — Project NovaSolverは検証プロセスの改善にも注力しています。
CAEの未来を、実務者と共に考える
Project NovaSolverは、ヘルツ接触理論(球−平面)における実務課題の本質に向き合い、エンジニアリングの現場を支える道具づくりを目指す研究開発プロジェクトです。
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