標準k-εモデル — 数値解法と実装
有限体積法による離散化
標準k-εの輸送方程式をCFDソルバーでどうやって解くのか教えてください。
CFDでは有限体積法(FVM)が標準だ。$k$ と $\varepsilon$ の輸送方程式をセル体積で積分し、Gaussの発散定理でフェイス上のフラックスに変換する。一般的な離散化スキームの選択はこうなる。
| 項 | 推奨スキーム | 備考 |
|---|---|---|
| 対流項 | 2次風上(Second Order Upwind) | 数値拡散を抑制 |
| 拡散項 | 中心差分 | 2次精度が標準 |
| 時間項(非定常) | 2次陰解法 | 安定性と精度の両立 |
1次風上じゃダメなんですか?
1次風上は数値拡散が大きく、乱流場の予測精度が著しく低下する。特に剥離領域やせん断層で問題になる。ただし収束が難しい場合に初期数イテレーションだけ1次風上で回してから2次に切り替える手法は実務でよく使う。
SIMPLE系アルゴリズムとの連成
圧力-速度連成とk-ε方程式の関係はどうなってますか?
SIMPLE、SIMPLEC、PISO等の圧力ベースソルバーでは、1反復の中で以下の順序で解く。
1. 運動量方程式を解く(速度場の仮更新)
2. 圧力補正方程式を解く
3. 速度・圧力を補正
4. $k$ 方程式を解く
5. $\varepsilon$ 方程式を解く
6. $\mu_t$ を更新
7. 収束判定 → 未収束なら1へ戻る
$k$ と $\varepsilon$ は分離解法(segregated)で順に解くのが標準だ。密度ベースソルバー(coupled)では全変数を同時に解くこともある。
緩和係数の設定
緩和係数って重要ですか?
非常に重要だ。標準k-εモデルでの推奨Under-Relaxation Factor(URF)はこんな感じだ。
| 変数 | 推奨URF(定常) | 備考 |
|---|---|---|
| 圧力 | 0.3 | 収束が遅ければ0.2に下げる |
| 運動量 | 0.7 | |
| $k$ | 0.8 | |
| $\varepsilon$ | 0.8 | |
| 乱流粘性比 | 1.0 | 通常変更不要 |
$k$ や $\varepsilon$ の緩和を下げすぎるとどうなりますか?
収束が極端に遅くなる。また $\mu_t$ の更新が遅れるので、速度場との整合がとれず振動することがある。どうしても発散する場合は $\varepsilon$ のURFだけ0.5程度に下げるのが一つの手だ。
境界条件
入口の乱流境界条件はどう設定するんですか?
乱流強度 $I$ と乱流長さスケール $l$ (または水力直径 $D_H$)から算出するのが一般的だ。
配管内部流れなら乱流強度 $I = 5\%$ 程度が目安。外部流れのファーフィールドでは $I = 0.1\sim1\%$ と小さめにとる。乱流粘性比 $\mu_t/\mu$ を直接指定する方法もある(一般的に1〜10)。
レイノルズの実験(1883年)——乱流発見の瞬間
オズボーン・レイノルズは、管内の水にインクを流す実験で「層流から乱流への遷移」を発見しました。流速を上げていくと、インクの線がある瞬間にグチャグチャに乱れる。この劇的な瞬間を、レイノルズは数学的に $Re = \rho uD/\mu$ という無次元数で表現した。100年以上経った今も、CFDエンジニアが最初に確認するのはこのレイノルズ数です。
離散化手法の詳細解説
空間離散化における手法選択が数値精度・安定性・計算コストに与える影響を詳述する。
風上差分(Upwind)
1次風上: 数値拡散が大きいが安定。2次風上: 精度向上するが振動のリスク。高レイノルズ数流れでは必須。
中心差分(Central Differencing)
2次精度だが、Pe数 > 2で数値振動が発生。低レイノルズ数の拡散支配流れに適する。
TVDスキーム(MUSCL、QUICK等)
リミッタ関数により数値振動を抑制しつつ高精度を維持。衝撃波や急勾配の捕捉に有効。
有限体積法 vs 有限要素法
FVM: 保存則を自然に満足。CFDの主流。FEM: 複雑形状・マルチフィジックスに有利。SPH等のメッシュフリー法も発展中。
マトリクスソルバーの選定指針
問題規模と特性に応じた最適なソルバー選択のガイドライン。
| ソルバー種別 | 詳細・推奨条件 |
|---|---|
| 圧力-速度連成(SIMPLE系) | SIMPLE: 標準的だが収束が遅い。SIMPLEC: 圧力補正の緩和が改善。PISO: 非定常問題に適する。 |
| 連立系ソルバー | AMG(代数的マルチグリッド): 大規模問題の標準。ILU前処理: メモリ効率良好。ブロックGauss-Seidel: 連成系に有効。 |
| DOF別推奨 | 〜10⁵セル: SIMPLE+AMG、10⁵〜10⁷セル: SIMPLEC+AMG+並列、10⁷セル〜: 結合型ソルバー(Coupled Solver)を検討 |
時間積分法と収束判定
ソルバー内部の制御パラメータと収束判定基準について記述する。
CFL条件(クーラン数)
陽解法: CFL ≤ 1が安定条件。陰解法: CFL > 1でも安定だが、精度と反復回数に影響。LES: CFL ≈ 1を推奨。物理的意味: 1タイムステップで情報が1セル以上進まないこと。
残差モニタリング
連続の式・運動量・エネルギーの各残差が3〜4桁低下で収束と判断。質量保存の残差は特に重要。
緩和係数
圧力: 0.2〜0.3、速度: 0.5〜0.7が一般的な初期値。発散する場合は緩和係数を下げる。収束後は上げて加速。
非定常計算の内部反復
各タイムステップ内で定常解に収束するまで反復。内部反復数: 5〜20回が目安。残差がタイムステップ間で変動する場合は時間刻みを見直す。
数値解法の直感的理解
FVMのイメージ
有限体積法は「会計帳簿」に似ている。各セル(口座)について「入ってくる量」と「出ていく量」の収支を厳密に管理する。隣のセルに流れ出た量は、そのセルに流れ込む量と完全に一致する——これが「保存性」であり、流体解析で質量やエネルギーが勝手に増減しないことを保証する。
SIMPLE法のたとえ
SIMPLE法は「交互に調整する」手法。まず速度を仮に求め(予測ステップ)、その速度で質量保存が満たされるよう圧力を補正し(補正ステップ)、補正された圧力で速度を修正する——このキャッチボールを繰り返して正解に近づく。2人で棚を水平にする作業に似ている:片方が高さを合わせ、もう片方がバランスを取り、これを交互に繰り返す。
風上差分のたとえ
風上差分は「川の流れに立って上流の情報を重視する」手法。川の中にいる人が下流を見ても水の出所は分からない——上流の情報が下流を決めるという物理を反映した離散化手法。精度は1次だが、流れの方向を正しく捕捉するため安定性が高い。
CFDメッシュの品質管理や乱流モデルの選定に悩む時間を、もっと創造的な設計作業に使えたら。 — Project NovaSolverはそんな実務者の声から生まれました。
CAEの未来を、実務者と共に考える
Project NovaSolverは、標準k-εモデルにおける実務課題の本質に向き合い、エンジニアリングの現場を支える道具づくりを目指す研究開発プロジェクトです。
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