クリーンルーム気流解析 — 理論と支配方程式

カテゴリ: 流体解析(CFD) | 2026-01-15
cleanroom-flow-theory
理論と物理の世界へ

概要

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先生! クリーンルームの気流解析って、半導体工場とかで使うやつですよね? どういう物理が関わってくるんですか?


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クリーンルーム気流解析は、室内の清浄度を維持するために一方向流(ユニフロー)や乱流置換方式の気流パターンをCFDで予測する技術だよ。ISO 14644-1で定義される清浄度クラス(Class 1〜Class 9)を達成するため、FFU(Fan Filter Unit)からの吹き出し気流がパーティクルをどう搬送・排出するかを解析するんだ。


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なるほど、清浄度クラスを数値的に検証できるってことですね。


支配方程式

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気流解析で使う方程式はNavier-Stokesですよね? パーティクルの追跡はどうするんですか?


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まず連続気相はRANSベースのNavier-Stokes方程式で解く。非圧縮性を仮定する場合が多い。


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連続の式とNavier-Stokes方程式はこうなる。


$$ \nabla \cdot \mathbf{u} = 0 $$

$$ \rho \frac{\partial \mathbf{u}}{\partial t} + \rho (\mathbf{u} \cdot \nabla)\mathbf{u} = -\nabla p + \mu \nabla^2 \mathbf{u} + \rho \mathbf{g} + \mathbf{S} $$

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FFUのフィルタ部分は多孔質メディアモデルで表現する。Darcy-Forchheimer抵抗が入る。


$$ S_i = -\left(\frac{\mu}{\alpha}v_i + C_2 \frac{\rho}{2}|v|v_i\right) $$

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$\alpha$ が透過率で $C_2$ が慣性抵抗係数ですね。フィルタのカタログ値から逆算できますか?


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HEPAフィルタの場合、面風速0.45 m/sで圧力損失が約250 Paというのが典型値だ。これとフィルタ厚さから $\alpha$ と $C_2$ を算出する。パーティクル追跡にはDPM(Discrete Phase Model)を使い、粒子の運動方程式を解く。


$$ m_p \frac{d\mathbf{u}_p}{dt} = F_D(\mathbf{u} - \mathbf{u}_p) + m_p \mathbf{g} + F_{\text{Brownian}} + F_{\text{Saffman}} $$

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ブラウン力まで入れるんですか。サブミクロン粒子だとブラウン運動が効いてくるわけですね。


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そう、0.1 um以下の粒子ではブラウン拡散が支配的になる。Cunningham補正係数 $C_c$ も必要だ。


$$ C_c = 1 + \frac{2\lambda}{d_p}\left(1.257 + 0.4 e^{-1.1 d_p / 2\lambda}\right) $$

乱流モデルの選択

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クリーンルームの乱流モデルは何が適していますか?


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一方向流クリーンルームでは層流に近い領域と乱流領域が共存するから、SST $k$-$\omega$ モデルが推奨される。低Re数領域の壁面処理が自然にできるからだ。


乱流モデル推奨度特徴
SST k-omega低Re壁面処理、剥離予測に強い
Realizable k-epsilon汎用的だが壁関数が必要
RNG k-epsilon旋回流に若干良好
LES (Smagorinsky)非常に高(計算コスト大)非定常渦構造を直接解像
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半導体ファブの実案件ではSST k-omegaが多いんですね。LESは研究用途ですか?


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その通り。ただし最近はクリーンルーム内の人体動作による乱れの非定常解析でLESが使われることも増えてきている。


実務上の注意点

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現場で気をつけるべきポイントを教えてください。


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  • 人体発熱(約75 W/人)と発塵(Class 5作業着で約5000個/min)の同時考慮
  • FFU面風速の均一性がISO規格の要件を満たすか確認
  • 床下リターンプレナムのモデル化が圧力分布に大きく影響する
  • Boussinesq近似による浮力駆動流の考慮(温度差が5 K以上ある場合)

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人体の発塵モデルまでCFDに入れるんですね。クリーンルーム特有の話で勉強になります。


Coffee Break よもやま話

レイノルズの実験(1883年)——乱流発見の瞬間

オズボーン・レイノルズは、管内の水にインクを流す実験で「層流から乱流への遷移」を発見しました。流速を上げていくと、インクの線がある瞬間にグチャグチャに乱れる。この劇的な瞬間を、レイノルズは数学的に $Re = \rho uD/\mu$ という無次元数で表現した。100年以上経った今も、CFDエンジニアが最初に確認するのはこのレイノルズ数です。

各項の物理的意味
  • 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
  • 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
  • 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
  • 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
  • ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
  • ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
  • 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
  • ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
  • 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
速度 $u$m/s入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意
圧力 $p$Paゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用
密度 $\rho$kg/m³空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C
粘性係数 $\mu$Pa·s動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意
レイノルズ数 $Re$無次元$Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標
CFL数無次元$CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結

数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)

Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa

乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):

k-ε標準5.8h(実験6.1h)
-4.9%
k-ω SST6.0h
-1.6%
RSM6.05h
-0.8%
LES6.12h
+0.3%
実験値6.1h
基準

k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。

簡易計算ツール:流体力学基礎

レイノルズ数 Re = ρuL/μ を計算し、層流/乱流の判定を行います。

CFL数 = u·Δt/Δx を計算し、時間刻みの安定性を確認します。

円管内の層流ハーゲン-ポアズイユ流れの圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴)

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Project NovaSolver — CAE実務の課題に向き合う研究開発

「クリーンルーム気流解析をもっと効率的に解析できないか?」——私たちは実務者の声に耳を傾け、既存ワークフローの改善を目指す次世代CAEプロジェクトに取り組んでいます。具体的な機能はまだ公開前ですが、開発の進捗をお届けします。

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