標準k-εモデル — 理論と支配方程式

カテゴリ: 流体解析 | 2026-01-15
k-epsilon-standard-theory
理論と物理の世界へ

概要

🧑‍🎓

先生、標準k-εモデルって乱流の世界では一番有名なモデルですよね? 改めて基礎から教えてもらえますか?


🎓

LaunderとSpalding(1974)が提案した2方程式乱流モデルだ。乱流エネルギー $k$ とその散逸率 $\varepsilon$ の輸送方程式を解く。工業CFDで最も広く使われてきた歴史がある。


🧑‍🎓

2方程式モデルっていうのは、$k$ と $\varepsilon$ の2つの方程式を解くからですか?


🎓

その通り。渦粘性仮説(Boussinesq仮説)に基づいて、レイノルズ応力テンソルを渦粘性係数 $\mu_t$ で近似する。つまりこういう形だ。


$$ -\rho\overline{u_i'u_j'} = \mu_t\left(\frac{\partial U_i}{\partial x_j}+\frac{\partial U_j}{\partial x_i}\right) - \frac{2}{3}\rho k \delta_{ij} $$

輸送方程式

🧑‍🎓

$k$ と $\varepsilon$ それぞれの輸送方程式はどんな形になるんですか?


🎓

まず乱流エネルギー $k$ の方程式だ。


$$ \frac{\partial(\rho k)}{\partial t}+\frac{\partial(\rho U_j k)}{\partial x_j}=\frac{\partial}{\partial x_j}\left[\left(\mu+\frac{\mu_t}{\sigma_k}\right)\frac{\partial k}{\partial x_j}\right]+P_k-\rho\varepsilon $$

🎓

次に散逸率 $\varepsilon$ の方程式だ。


$$ \frac{\partial(\rho\varepsilon)}{\partial t}+\frac{\partial(\rho U_j\varepsilon)}{\partial x_j}=\frac{\partial}{\partial x_j}\left[\left(\mu+\frac{\mu_t}{\sigma_\varepsilon}\right)\frac{\partial\varepsilon}{\partial x_j}\right]+C_{\varepsilon 1}\frac{\varepsilon}{k}P_k - C_{\varepsilon 2}\rho\frac{\varepsilon^2}{k} $$

🎓

ここで渦粘性は以下で定義される。


$$ \mu_t = \rho C_\mu \frac{k^2}{\varepsilon} $$

🎓

生成項 $P_k$ は平均ひずみ速度テンソル $S_{ij}$ を使って次のように書く。


$$ P_k = \mu_t S^2, \quad S = \sqrt{2S_{ij}S_{ij}} $$

モデル定数

🧑‍🎓

各定数の標準値を教えてください。


🎓

標準k-εモデルの定数は以下の通りだ。これらはLaunder-Spaldingが一様等方乱流の減衰データや対数則などから決定した値だ。


定数決定根拠
$C_\mu$0.09対数則領域での整合性
$C_{\varepsilon 1}$1.44一様せん断流の実験
$C_{\varepsilon 2}$1.92格子乱流の減衰実験
$\sigma_k$1.0乱流拡散の経験値
$\sigma_\varepsilon$1.3乱流拡散の経験値
🧑‍🎓

これらの定数って変えちゃダメなんですか?


🎓

原則として変更しないのが基本だ。ただし、$C_{\varepsilon 1}$ はラウンドジェットの拡がり率を合わせるために1.60に変更する「ラウンドジェット補正」が知られている。この辺は実務でも時々使う知識だ。


強みと弱み

🧑‍🎓

標準k-εの得意・不得意を整理してもらえますか?


🎓

強み:

  • ロバストで収束しやすい
  • 工業的な内部流れ(配管、ダクト)で実績豊富
  • 計算コストが低い
  • 初期条件の設定が容易(乱流強度とスケールから $k$, $\varepsilon$ を算出)

🎓

弱み:

  • 旋回流・曲率の強い流れで乱流エネルギーを過大予測
  • 逆圧力勾配下の剥離を正確に捉えられない
  • 壁面近傍では壁関数が必要(標準モデルは高Reynolds数型)
  • 等方渦粘性仮説の限界で強い異方性乱流に不向き

🧑‍🎓

旋回流で過大予測するのはなぜですか?


🎓

$C_\mu$ が定数0.09に固定されているからだ。旋回や曲率が強い領域では実効的な $C_\mu$ はもっと小さくなるべきなんだが、標準モデルではそれを反映できない。これがRealizable k-εモデルで改良された点だ。


Coffee Break よもやま話

ライト兄弟は最初の「CFDエンジニア」だった?

ライト兄弟は1901年に自作の風洞で200以上の翼型を試験しました。当時のコンピュータは? もちろん存在しません。彼らは手作業で揚力と抗力を測定し、最適な翼型を見つけ出した。現代のCFDエンジニアがFluent1発で計算する揚力係数を、ライト兄弟は何百回もの風洞実験で手に入れたのです。

各項の物理的意味
  • 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
  • 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
  • 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
  • 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
  • ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
  • ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
  • 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
  • ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
  • 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
速度 $u$m/s入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意
圧力 $p$Paゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用
密度 $\rho$kg/m³空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C
粘性係数 $\mu$Pa·s動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意
レイノルズ数 $Re$無次元$Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標
CFL数無次元$CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結

数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)

Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa

乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):

k-ε標準5.8h(実験6.1h)
-4.9%
k-ω SST6.0h
-1.6%
RSM6.05h
-0.8%
LES6.12h
+0.3%
実験値6.1h
基準

k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。

簡易計算ツール:流体力学基礎

レイノルズ数 Re = ρuL/μ を計算し、層流/乱流の判定を行います。

CFL数 = u·Δt/Δx を計算し、時間刻みの安定性を確認します。

円管内の層流ハーゲン-ポアズイユ流れの圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴)

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