ダクト内流れ — 理論と支配方程式

カテゴリ: 流体解析(CFD) | 2026-01-15
duct-flow-theory
理論と物理の世界へ

概要

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先生! ダクト内流れの解析って、空調配管やプラント配管で使うやつですよね? 基礎から教えてください。


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ダクト内流れのCFD解析は、配管やダクト系統の圧力損失予測、流量分配、偏流評価を目的とする。設計段階でDarcy-Weisbach式の手計算だけでは捉えきれない局所損失や二次流れをCFDで可視化するんだ。


支配方程式

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圧力損失の基本式はDarcy-Weisbachですよね。


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そう。直管部の摩擦損失はDarcy-Weisbach式で記述される。


$$ \Delta p_f = f \frac{L}{D_h} \frac{\rho V^2}{2} $$

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ここで $f$ は管摩擦係数、$L$ は管長、$D_h$ は水力直径、$V$ は断面平均流速だ。層流の場合は $f = 64/Re$、乱流の場合はColebrookの式で求める。


$$ \frac{1}{\sqrt{f}} = -2.0 \log\left(\frac{\varepsilon/D_h}{3.7} + \frac{2.51}{Re\sqrt{f}}\right) $$

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Colebrookは陰的な式だから反復計算が必要ですね。実務ではSwamee-Jainの近似式を使うことも多いですか?


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その通り。Swamee-Jainは陽的で実用上十分な精度がある。


$$ f = \frac{0.25}{\left[\log\left(\frac{\varepsilon/D_h}{3.7} + \frac{5.74}{Re^{0.9}}\right)\right]^2} $$

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局所損失(エルボ、分岐、拡大・縮小)は損失係数 $K$ で表す。


$$ \Delta p_{local} = K \frac{\rho V^2}{2} $$

要素損失係数 K(目安)
90° エルボ(R/D=1.5)0.2〜0.3
90° マイター(ベーンなし)1.1〜1.3
T字分岐(直進)0.3〜0.5
T字分岐(分流)0.8〜1.3
急拡大$(1 - A_1/A_2)^2$
急縮小$0.5(1 - A_2/A_1)$
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手計算での損失係数は文献値ですが、CFDだとジオメトリ固有の正確な値が出せるわけですね。


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そう。特に角型ダクトのコーナーピースや複雑な分岐管は文献値がない場合が多いから、CFDで求める価値がある。


乱流モデルの選択

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ダクト内流れに適した乱流モデルは何ですか?


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管内流れはRealizable $k$-$\varepsilon$ モデルが定番だ。壁関数はEnhanced Wall Treatment(y+ ≒ 1)が理想だが、y+ = 30〜300のStandard Wall Functionでも圧損予測は実用精度が出る。


乱流モデル推奨用途備考
Realizable k-epsilon直管・エルボ汎用、壁関数で高速計算
SST k-omega剥離・急拡大逆圧力勾配に強い
RSM (Reynolds Stress)旋回流・二次流れ精度高いが計算コスト大
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角型ダクトでは二次流れ(コーナー渦)が発生しますが、k-epsilonで捉えられますか?


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角型ダクトの二次流れはReynolds応力の非等方性に起因するから、厳密にはRSMが必要だ。ただし圧損予測が目的なら k-epsilon でも誤差は5%程度に収まる。


Coffee Break よもやま話

ライト兄弟は最初の「CFDエンジニア」だった?

ライト兄弟は1901年に自作の風洞で200以上の翼型を試験しました。当時のコンピュータは? もちろん存在しません。彼らは手作業で揚力と抗力を測定し、最適な翼型を見つけ出した。現代のCFDエンジニアがFluent1発で計算する揚力係数を、ライト兄弟は何百回もの風洞実験で手に入れたのです。

各項の物理的意味
  • 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
  • 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
  • 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
  • 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
  • ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
  • ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
  • 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
  • ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
  • 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
速度 $u$m/s入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意
圧力 $p$Paゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用
密度 $\rho$kg/m³空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C
粘性係数 $\mu$Pa·s動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意
レイノルズ数 $Re$無次元$Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標
CFL数無次元$CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結

数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)

Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa

乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):

k-ε標準5.8h(実験6.1h)
-4.9%
k-ω SST6.0h
-1.6%
RSM6.05h
-0.8%
LES6.12h
+0.3%
実験値6.1h
基準

k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。

簡易計算ツール:流体力学基礎

レイノルズ数 Re = ρuL/μ を計算し、層流/乱流の判定を行います。

CFL数 = u·Δt/Δx を計算し、時間刻みの安定性を確認します。

円管内の層流ハーゲン-ポアズイユ流れの圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴)

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