非ニュートン流体 — 数値解法と実装
非ニュートン流体の数値解法
非ニュートン流体をCFDで解くとき、ニュートン流体と何が違うんですか?
根本的な違いは、粘度が速度場に依存することだ。Navier-Stokes方程式の粘性項が非線形になる。
$\mathbf{D} = \frac{1}{2}(\nabla\mathbf{u} + \nabla\mathbf{u}^T)$ はひずみ速度テンソルだ。
解法としてはPicard反復(逐次代入法)が基本になる。
1. 前のステップの速度場から $\dot{\gamma}$ を計算
2. $\eta(\dot{\gamma})$ を更新
3. 更新された粘度でN-S方程式を解いて新しい速度場を得る
4. 収束するまで1-3を繰り返す
ニュートン流体に比べて反復が1つ増えるんですね。
そうだ。この外側の反復ループが収束しにくいのが非ニュートン流体計算の難しさだ。特にshear-thinning度が強い($n$ が小さい)場合や降伏応力がある場合は要注意。
一般化レイノルズ数
非ニュートン流体ではレイノルズ数の定義も変わる。Power-law流体の管内流ではMetzner-Reed一般化レイノルズ数が使われる。
層流-乱流遷移は $\text{Re}_{\text{MR}} \approx 2100$ で起きる(ニュートン流体とほぼ同じ臨界値)。ただし遷移後の乱流挙動はニュートン流体とは大きく異なる。
一般化Re数の式は結構複雑ですね。
有限体積法での離散化
CFDで非ニュートン流体を解く際の離散化の注意点を説明しよう。
粘度のフェース値補間が重要になる。セル中心で計算した粘度をフェースに補間する際:
- 調和平均: 粘度が急変する界面で推奨。$\eta_f = \frac{2\eta_L \eta_R}{\eta_L + \eta_R}$
- 算術平均: 粘度変化が緩やかな場合。$\eta_f = \frac{\eta_L + \eta_R}{2}$
shear-thinning流体では、壁面近傍と流路中心で粘度が数桁異なることがある。例えば高分子メルトの射出成形では $\eta$ が $10^1 \sim 10^4\,\text{Pa}\cdot\text{s}$ の範囲で変化する。この急変に対応するため、壁面近傍のメッシュを十分に細かくする必要がある。
| Power-law $n$ | 粘度比 $\eta_{\text{center}}/\eta_{\text{wall}}$ | メッシュ要求 |
|---|---|---|
| 0.8 | 約3 | 緩やかな細分化で十分 |
| 0.5 | 約30 | 壁面近傍に10層以上推奨 |
| 0.2 | 約1000 | 非常に細かいメッシュが必要 |
$n$ が小さいほどメッシュ要求が厳しくなるんですね。収束も難しくなりそう。
その通り。緩和係数を0.3-0.5に下げ、粘度の更新にも緩和を入れるのが実務的なテクニックだ。
レイノルズの実験(1883年)——乱流発見の瞬間
オズボーン・レイノルズは、管内の水にインクを流す実験で「層流から乱流への遷移」を発見しました。流速を上げていくと、インクの線がある瞬間にグチャグチャに乱れる。この劇的な瞬間を、レイノルズは数学的に $Re = \rho uD/\mu$ という無次元数で表現した。100年以上経った今も、CFDエンジニアが最初に確認するのはこのレイノルズ数です。
離散化手法の詳細解説
空間離散化における手法選択が数値精度・安定性・計算コストに与える影響を詳述する。
風上差分(Upwind)
1次風上: 数値拡散が大きいが安定。2次風上: 精度向上するが振動のリスク。高レイノルズ数流れでは必須。
中心差分(Central Differencing)
2次精度だが、Pe数 > 2で数値振動が発生。低レイノルズ数の拡散支配流れに適する。
TVDスキーム(MUSCL、QUICK等)
リミッタ関数により数値振動を抑制しつつ高精度を維持。衝撃波や急勾配の捕捉に有効。
有限体積法 vs 有限要素法
FVM: 保存則を自然に満足。CFDの主流。FEM: 複雑形状・マルチフィジックスに有利。SPH等のメッシュフリー法も発展中。
マトリクスソルバーの選定指針
問題規模と特性に応じた最適なソルバー選択のガイドライン。
| ソルバー種別 | 詳細・推奨条件 |
|---|---|
| 圧力-速度連成(SIMPLE系) | SIMPLE: 標準的だが収束が遅い。SIMPLEC: 圧力補正の緩和が改善。PISO: 非定常問題に適する。 |
| 連立系ソルバー | AMG(代数的マルチグリッド): 大規模問題の標準。ILU前処理: メモリ効率良好。ブロックGauss-Seidel: 連成系に有効。 |
| DOF別推奨 | 〜10⁵セル: SIMPLE+AMG、10⁵〜10⁷セル: SIMPLEC+AMG+並列、10⁷セル〜: 結合型ソルバー(Coupled Solver)を検討 |
時間積分法と収束判定
ソルバー内部の制御パラメータと収束判定基準について記述する。
CFL条件(クーラン数)
陽解法: CFL ≤ 1が安定条件。陰解法: CFL > 1でも安定だが、精度と反復回数に影響。LES: CFL ≈ 1を推奨。物理的意味: 1タイムステップで情報が1セル以上進まないこと。
残差モニタリング
連続の式・運動量・エネルギーの各残差が3〜4桁低下で収束と判断。質量保存の残差は特に重要。
緩和係数
圧力: 0.2〜0.3、速度: 0.5〜0.7が一般的な初期値。発散する場合は緩和係数を下げる。収束後は上げて加速。
非定常計算の内部反復
各タイムステップ内で定常解に収束するまで反復。内部反復数: 5〜20回が目安。残差がタイムステップ間で変動する場合は時間刻みを見直す。
数値解法の直感的理解
FVMのイメージ
有限体積法は「会計帳簿」に似ている。各セル(口座)について「入ってくる量」と「出ていく量」の収支を厳密に管理する。隣のセルに流れ出た量は、そのセルに流れ込む量と完全に一致する——これが「保存性」であり、流体解析で質量やエネルギーが勝手に増減しないことを保証する。
SIMPLE法のたとえ
SIMPLE法は「交互に調整する」手法。まず速度を仮に求め(予測ステップ)、その速度で質量保存が満たされるよう圧力を補正し(補正ステップ)、補正された圧力で速度を修正する——このキャッチボールを繰り返して正解に近づく。2人で棚を水平にする作業に似ている:片方が高さを合わせ、もう片方がバランスを取り、これを交互に繰り返す。
風上差分のたとえ
風上差分は「川の流れに立って上流の情報を重視する」手法。川の中にいる人が下流を見ても水の出所は分からない——上流の情報が下流を決めるという物理を反映した離散化手法。精度は1次だが、流れの方向を正しく捕捉するため安定性が高い。
CFDメッシュの品質管理や乱流モデルの選定に悩む時間を、もっと創造的な設計作業に使えたら。 — Project NovaSolverはそんな実務者の声から生まれました。
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