磁気流体力学(MHD) — 数値解法と実装

カテゴリ: 流体解析(CFD) | 2026-01-20
magneto-hydrodynamics-method
数値解法の舞台裏

MHDの数値解法

🧑‍🎓

MHDの連成方程式をCFDでどうやって解くんですか?


🎓

低Rm近似(工業液体金属の大半)と高Rm問題(プラズマ、天体物理)で手法が異なる。


低Rm近似の解法

🎓

$\text{Rm} \ll 1$ の場合、誘導磁場は印加磁場に比べて無視でき、磁場は既知の外部場 $\mathbf{B}_0$ として扱える。電場の支配方程式は:


$$ \nabla^2 \phi = \nabla \cdot (\mathbf{u} \times \mathbf{B}_0) $$

$\phi$ は電位。この Poisson方程式を解いて $\mathbf{E} = -\nabla\phi$ を求め、$\mathbf{J} = \sigma(-\nabla\phi + \mathbf{u} \times \mathbf{B}_0)$、$\mathbf{F}_L = \mathbf{J} \times \mathbf{B}_0$ を計算してN-S方程式のソース項に加える。


🎓

計算手順:

1. 流れ場から $\mathbf{u} \times \mathbf{B}_0$ を計算

2. 電位のPoisson方程式を解く

3. 電流密度 $\mathbf{J}$ を計算

4. Lorentz力 $\mathbf{F}_L$ をN-S方程式に加えて流れ場を更新

5. 収束まで1-4を繰り返す


🧑‍🎓

電位の方程式が1つ増えるだけで、基本的にはN-Sの延長線上にあるんですね。


高Rm問題の解法

🎓

$\text{Rm} \gg 1$(プラズマ物理、天体物理)では磁場の誘導方程式をフルに解く必要がある。


🎓

主要な数値手法:


  • Constrained Transport (CT) 法: $\nabla \cdot \mathbf{B} = 0$ をセルフェースでの磁束保存で厳密に維持
  • Divergence Cleaning法: $\nabla \cdot \mathbf{B}$ の誤差をダンピングする補正方程式を追加
  • ベクトルポテンシャル法: $\mathbf{B} = \nabla \times \mathbf{A}$ として $\nabla \cdot \mathbf{B} = 0$ を自動的に保証

🎓

$\nabla \cdot \mathbf{B} = 0$ の維持は数値MHDの根本的な課題だ。これが崩れると非物理的な磁気モノポール力が発生し、計算が破綻する。


Hartmann流れ — MHDの基本検証問題

🎓

MHDの最も基本的な解析解がHartmann流れだ。平行平板間の流れに壁面に垂直な磁場 $B_0$ を印加する。


$$ u(y) = U_0 \frac{\cosh(\text{Ha}) - \cosh(\text{Ha} \cdot y/H)}{\cosh(\text{Ha}) - 1} $$

🎓

Ha = 0 で放物線分布(Poiseuille流れ)、Ha → ∞ で壁面近傍のHartmann層(厚さ $\delta_H \sim H/\text{Ha}$)を除いてフラットな分布になる。


Ha速度分布Hartmann層厚さ
0放物線なし
10やや平坦化$H/10$
100中心部ほぼフラット$H/100$
1000Hartmann層のみに勾配$H/1000$
🧑‍🎓

Ha = 1000 だとHartmann層がチャネル幅の1/1000しかないんですね。メッシュの要求が厳しそう。


🎓

その通り。Hartmann層を解像するには壁面近傍にHa数に比例した数のメッシュ層が必要になる。これがMHD計算の主要なコストの一つだ。


Coffee Break よもやま話

レイノルズの実験(1883年)——乱流発見の瞬間

オズボーン・レイノルズは、管内の水にインクを流す実験で「層流から乱流への遷移」を発見しました。流速を上げていくと、インクの線がある瞬間にグチャグチャに乱れる。この劇的な瞬間を、レイノルズは数学的に $Re = \rho uD/\mu$ という無次元数で表現した。100年以上経った今も、CFDエンジニアが最初に確認するのはこのレイノルズ数です。

離散化手法の詳細解説

空間離散化における手法選択が数値精度・安定性・計算コストに与える影響を詳述する。

風上差分(Upwind)

1次風上: 数値拡散が大きいが安定。2次風上: 精度向上するが振動のリスク。高レイノルズ数流れでは必須。

中心差分(Central Differencing)

2次精度だが、Pe数 > 2で数値振動が発生。低レイノルズ数の拡散支配流れに適する。

TVDスキーム(MUSCL、QUICK等)

リミッタ関数により数値振動を抑制しつつ高精度を維持。衝撃波や急勾配の捕捉に有効。

有限体積法 vs 有限要素法

FVM: 保存則を自然に満足。CFDの主流。FEM: 複雑形状・マルチフィジックスに有利。SPH等のメッシュフリー法も発展中。

マトリクスソルバーの選定指針

問題規模と特性に応じた最適なソルバー選択のガイドライン。

ソルバー種別詳細・推奨条件
圧力-速度連成(SIMPLE系)SIMPLE: 標準的だが収束が遅い。SIMPLEC: 圧力補正の緩和が改善。PISO: 非定常問題に適する。
連立系ソルバーAMG(代数的マルチグリッド): 大規模問題の標準。ILU前処理: メモリ効率良好。ブロックGauss-Seidel: 連成系に有効。
DOF別推奨〜10⁵セル: SIMPLE+AMG、10⁵〜10⁷セル: SIMPLEC+AMG+並列、10⁷セル〜: 結合型ソルバー(Coupled Solver)を検討

時間積分法と収束判定

ソルバー内部の制御パラメータと収束判定基準について記述する。

CFL条件(クーラン数)

陽解法: CFL ≤ 1が安定条件。陰解法: CFL > 1でも安定だが、精度と反復回数に影響。LES: CFL ≈ 1を推奨。物理的意味: 1タイムステップで情報が1セル以上進まないこと。

残差モニタリング

連続の式・運動量・エネルギーの各残差が3〜4桁低下で収束と判断。質量保存の残差は特に重要。

緩和係数

圧力: 0.2〜0.3、速度: 0.5〜0.7が一般的な初期値。発散する場合は緩和係数を下げる。収束後は上げて加速。

非定常計算の内部反復

各タイムステップ内で定常解に収束するまで反復。内部反復数: 5〜20回が目安。残差がタイムステップ間で変動する場合は時間刻みを見直す。

数値解法の直感的理解

FVMのイメージ

有限体積法は「会計帳簿」に似ている。各セル(口座)について「入ってくる量」と「出ていく量」の収支を厳密に管理する。隣のセルに流れ出た量は、そのセルに流れ込む量と完全に一致する——これが「保存性」であり、流体解析で質量やエネルギーが勝手に増減しないことを保証する。

SIMPLE法のたとえ

SIMPLE法は「交互に調整する」手法。まず速度を仮に求め(予測ステップ)、その速度で質量保存が満たされるよう圧力を補正し(補正ステップ)、補正された圧力で速度を修正する——このキャッチボールを繰り返して正解に近づく。2人で棚を水平にする作業に似ている:片方が高さを合わせ、もう片方がバランスを取り、これを交互に繰り返す。

風上差分のたとえ

風上差分は「川の流れに立って上流の情報を重視する」手法。川の中にいる人が下流を見ても水の出所は分からない——上流の情報が下流を決めるという物理を反映した離散化手法。精度は1次だが、流れの方向を正しく捕捉するため安定性が高い。

CFDメッシュの品質管理や乱流モデルの選定に悩む時間を、もっと創造的な設計作業に使えたら。 — Project NovaSolverはそんな実務者の声から生まれました。

CAEの未来を、実務者と共に考える

Project NovaSolverは、磁気流体力学(MHD)における実務課題の本質に向き合い、エンジニアリングの現場を支える道具づくりを目指す研究開発プロジェクトです。

プロジェクトの最新情報を見る →