平面ひずみ問題 — 理論と支配方程式
平面ひずみとは
平面応力の回で「平面ひずみ」が出てきましたが、詳しく教えてください。
平面ひずみ(plane strain)は、構造の奥行き方向($z$ 方向)のひずみがゼロという仮定だ:
奥行き方向に変形しない…どういう状況でそうなるんですか?
奥行きが断面寸法に比べて十分長い構造だ。構造の中央付近では端部の影響がなく、奥行き方向の変形が拘束される。
典型例:
- ダムの断面 — 奥行き(河川方向)が非常に長い
- トンネルの断面 — 軸方向に一様な断面
- 長い堤防 — 堤体の長手方向に一様
- 圧延ロール — 幅方向に一様な変形
- 地盤のすべり面 — 奥行きに一様と仮定
平面応力は「薄い板」、平面ひずみは「長い柱状体の断面」なんですね。
平面ひずみの構成則
平面ひずみのフックの法則は平面応力とどう違いますか?
平面ひずみの構成則(マトリクス形式):
分母に $(1-2\nu)$ が入っている! $\nu \to 0.5$ で剛性が無限大になりますね。
これが平面ひずみの最も重要な特徴だ。非圧縮材料($\nu = 0.5$)では体積変化がゼロなのに、$\varepsilon_{zz} = 0$ も要求されるため、面内変形の自由度が極端に制限される。これが体積ロッキングの原因だ。
ゴムやほぼ非圧縮の材料では平面ひずみ解析が難しいということですか。
その通り。$\nu > 0.49$ 程度で通常の要素は使い物にならなくなる。ハイブリッド要素(圧力を独立変数にする)や低減積分要素が必須だ。
平面ひずみの応力
$\varepsilon_{zz} = 0$ だけど $\sigma_{zz} \neq 0$ なんですよね。
そう。$z$ 方向のひずみがゼロでも、ポアソン効果で $z$ 方向に応力が発生する:
$\sigma_x + \sigma_y$ が引張なら $\sigma_{zz}$ も引張…奥行き方向に引っ張られる応力が出る。
この $\sigma_{zz}$ は拘束応力であり、平面ひずみの仮定が成り立つ限り自動的に発生する。3次元解析で同じ問題を解くと、構造の中央部ではこの $\sigma_{zz}$ が確認でき、端部では $\sigma_{zz} \to 0$(平面応力に近づく)ことが見える。
地盤力学での平面ひずみ
地盤工学では平面ひずみが標準的と聞きました。
掘削、盛土、擁壁、トンネルなど、長手方向に一様な断面を持つ地盤問題では平面ひずみが事実上の標準だ。
ただし注意点がある:
- 土の構成則 — Mohr-Coulomb、Cam-Clay等は3次元応力状態で定義されるが、平面ひずみでは中間主応力 $\sigma_2 = \sigma_{zz} = \nu(\sigma_1 + \sigma_3)$ が自動的に決まる。この $\sigma_2$ が破壊判定に影響する
- 異方性 — 堆積土は水平方向と鉛直方向で剛性が異なる(横等方性)。平面ひずみでもこの異方性は考慮すべき
Mohr-Coulombの破壊基準は中間主応力を無視するから、平面ひずみでは安全側になるんですか?
Mohr-Coulomb基準は中間主応力の影響を無視するため、平面ひずみでは保守的(安全側)な予測になることが多い。中間主応力を考慮するDrucker-PragerやLade基準を使うと、より現実的な強度評価になる。
まとめ
平面ひずみの理論を整理します。
要点:
- $\varepsilon_{zz} = 0$ の仮定 — 長い柱状構造の断面解析に適用
- $\sigma_{zz} = \nu(\sigma_x + \sigma_y)$ — 奥行き方向に拘束応力が発生
- $(1-2\nu)$ が分母に入る — $\nu \to 0.5$ で剛性が発散(体積ロッキング)
- 地盤力学の標準的な仮定 — 掘削、トンネル、盛土
- 平面応力との混同は厳禁 — 仮定が全く異なる
平面応力と平面ひずみ、見た目は似ているけど物理が根本的に違うんですね。
そう。どちらも2次元に帰着するが、「何がゼロか」が違う。応力がゼロ(平面応力)か、ひずみがゼロ(平面ひずみ)か。この出発点の違いが全ての差を生む。
NASAとNASTRAN — FEMの夜明け
今や世界中で使われている有限要素法ソルバー「NASTRAN」は、1960年代にNASAが開発しました。アポロ計画でロケットの構造解析が必要だったのです。当時のコンピュータはメモリ数KBの時代——今のスマートフォンの100万分の1以下の性能で、人類を月に送る構造計算をしていたのです。
各項の物理的意味
- 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
- 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
- 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
- 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 変位 $u$ | m(メートル) | mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること |
| 応力 $\sigma$ | Pa(パスカル)= N/m² | MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意 |
| 歪み $\varepsilon$ | 無次元(m/m) | 工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時) |
| 弾性率 $E$ | Pa | 鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意 |
| 密度 $\rho$ | kg/m³ | mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼) |
| 力 $F$ | N(ニュートン) | mm系ではN、m系ではNで統一 |
数値例:片持ち梁の先端荷重(L=1m, 断面50×100mm, 鋼材E=210GPa, P=1kN)
最大たわみ δ = PL³/(3EI) = 1000×1000³/(3×210000×4,166,667) ≈ 0.381 mm 最大応力 σ = PL×(h/2)/I ≈ 12.0 MPa(降伏応力235MPaに対して安全率19.6)
メッシュ密度を変えた収束性の確認:
ポイント:要素数を4倍にしても結果は0.5%しか変わらない→8,000要素で十分収束。これが「メッシュ収束性」の確認です。
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