Reynolds応力モデル(RSM) — 理論と支配方程式

カテゴリ: 流体解析(CFD) | 2026-01-15
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理論と物理の世界へ

概要

🧑‍🎓

先生、Reynolds応力モデル(RSM)って他のRANSモデルと何が違うんですか?


🎓

最大の違いは、渦粘性仮説(Boussinesq仮定)を使わない点だ。k-epsilonやk-omegaモデルは渦粘性 $\mu_t$ を介してレイノルズ応力 $\overline{u_i'u_j'}$ を平均ひずみ速度に比例させる。RSMはこの仮定を置かず、レイノルズ応力テンソルの6成分それぞれに対する輸送方程式を直接解く。


🧑‍🎓

6成分ってことは、方程式が6本も増えるんですか?


🎓

レイノルズ応力テンソルは対称だから独立成分は6つ。それに $\varepsilon$(散逸率)の方程式を加えて計7本の追加方程式を解く。2方程式モデル(k-omega等)に比べて計算コストは2〜3倍になる。


支配方程式

🧑‍🎓

具体的な方程式を教えてください。


🎓

レイノルズ応力 $R_{ij} = \overline{u_i'u_j'}$ の輸送方程式は次の通りだ。


$$ \frac{DR_{ij}}{Dt} = P_{ij} + \Pi_{ij} + D_{ij}^T + D_{ij}^\nu - \varepsilon_{ij} $$

各項の意味をまとめよう。


物理的意味
生成 $P_{ij}$$-R_{ik}\frac{\partial U_j}{\partial x_k} - R_{jk}\frac{\partial U_i}{\partial x_k}$平均速度勾配による生成(正確に計算可能)
圧力ひずみ $\Pi_{ij}$$\overline{p'\left(\frac{\partial u_i'}{\partial x_j}+\frac{\partial u_j'}{\partial x_i}\right)}$エネルギーの成分間再分配(要モデル化)
乱流拡散 $D_{ij}^T$$-\frac{\partial}{\partial x_k}\overline{u_i'u_j'u_k'}$乱流による輸送(要モデル化)
粘性拡散 $D_{ij}^\nu$$\nu\nabla^2 R_{ij}$分子粘性による拡散(正確)
散逸 $\varepsilon_{ij}$$2\nu\overline{\frac{\partial u_i'}{\partial x_k}\frac{\partial u_j'}{\partial x_k}}$粘性散逸(要モデル化)
🧑‍🎓

全部が正確に計算できるわけではないんですね。


🎓

その通り。生成項 $P_{ij}$ と粘性拡散は閉じた形で計算できるが、圧力ひずみ項、乱流拡散項、散逸テンソルにはモデル化が必要だ。RSMの精度はこれらのモデルの質に大きく依存する。


圧力ひずみ項のモデル

🧑‍🎓

圧力ひずみ項のモデルにはどんなものがありますか?


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代表的なモデルを挙げよう。


モデル提案者特徴
LRR (Linear Return to Isotropy)Launder, Reece, Rodi (1975)線形モデル。工業応用の標準
SSG (Speziale-Sarkar-Gatski)Speziale et al. (1991)二次非線形モデル。精度向上
GL (Gibson-Launder)Gibson, Launder (1978)壁面反射効果を考慮
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LRRモデルでは $\Pi_{ij}$ を以下のように分解する。


$$ \Pi_{ij} = \Pi_{ij,1} + \Pi_{ij,2} + \Pi_{ij,w} $$

$\Pi_{ij,1}$ は低速リターン項(異方性を等方に戻す効果)、$\Pi_{ij,2}$ は急速項(平均ひずみによる再分配)、$\Pi_{ij,w}$ は壁面反射項だ。

Coffee Break よもやま話

F1と空力の戦い

F1マシンは時速300kmで走ると、車重と同じくらいのダウンフォース(下向きの空力的な力)を発生します。つまり理論上、天井に貼り付けて走れる! チームは数千CPU時間のCFDシミュレーションを毎週実行し、フロントウィングの角度を0.1°単位で最適化しています。F1はCAEの技術力がそのまま順位に直結する世界です。

各項の物理的意味
  • 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
  • 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
  • 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
  • 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
  • ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
  • ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
  • 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
  • ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
  • 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
速度 $u$m/s入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意
圧力 $p$Paゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用
密度 $\rho$kg/m³空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C
粘性係数 $\mu$Pa·s動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意
レイノルズ数 $Re$無次元$Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標
CFL数無次元$CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結

数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)

Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa

乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):

k-ε標準5.8h(実験6.1h)
-4.9%
k-ω SST6.0h
-1.6%
RSM6.05h
-0.8%
LES6.12h
+0.3%
実験値6.1h
基準

k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。

簡易計算ツール:流体力学基礎

レイノルズ数 Re = ρuL/μ を計算し、層流/乱流の判定を行います。

CFL数 = u·Δt/Δx を計算し、時間刻みの安定性を確認します。

円管内の層流ハーゲン-ポアズイユ流れの圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴)

CFDメッシュの品質管理や乱流モデルの選定に悩む時間を、もっと創造的な設計作業に使えたら。 — Project NovaSolverはそんな実務者の声から生まれました。

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