SIMPLE法 — 理論と圧力-速度連成の基礎

カテゴリ: 流体解析 | 2026-01-15
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理論と物理の世界へ

SIMPLE法の概要

🧑‍🎓

先生、SIMPLE法って名前はよく聞くんですけど、何の略で、何をする手法なんですか?


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SIMPLE は Semi-Implicit Method for Pressure-Linked Equations の略で、1972年にPatankarとSpaldingが発表した圧力-速度連成アルゴリズムだよ。非圧縮性Navier-Stokes方程式を有限体積法で解くとき、圧力と速度をどうやって整合的に求めるかという問題を解決するんだ。


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圧力と速度の連成って、なぜそんなに厄介なんですか?


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非圧縮性流れでは連続の式(質量保存)が圧力の独立した方程式を含まないんだ。密度が一定だから状態方程式で圧力を求められない。結果として、運動量方程式と連続の式を同時に満たす圧力場と速度場を見つける必要がある。これが圧力-速度連成問題だよ。


支配方程式

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まず基本の方程式を教えてください。


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非圧縮性流れの支配方程式は次のとおりだ。


連続の式質量保存):


$$ \nabla \cdot \mathbf{u} = 0 $$

運動量方程式(Navier-Stokes方程式):


$$ \frac{\partial \mathbf{u}}{\partial t} + (\mathbf{u} \cdot \nabla)\mathbf{u} = -\frac{1}{\rho}\nabla p + \nu \nabla^2 \mathbf{u} $$

ここで $\mathbf{u}$ は速度ベクトル、$p$ は圧力、$\rho$ は密度、$\nu$ は動粘性係数だ。


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未知数が4つ(u, v, w, p)で方程式も4つだから、原理的には解けるはずですよね?


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そう。ただし圧力のPoisson方程式を直接導出して同時に解くのは計算コストが高い。SIMPLE法は「予測-補正」というアプローチで、この連成を効率的に分離して解くんだ。


SIMPLE法のアルゴリズム

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具体的な手順を教えてください。


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SIMPLE法の1反復は次の4ステップで構成される。


Step 1: 運動量方程式を仮の圧力 $p^*$ で解く


$$ a_P \mathbf{u}_P^* = \sum_N a_N \mathbf{u}_N^* + \mathbf{b} - \nabla p^* $$

これで仮速度 $\mathbf{u}^*$ を得る。この速度場は一般に連続の式を満たさない。


Step 2: 圧力補正方程式を解く


連続の式の残差を消すための圧力補正 $p'$ を求める:


$$ \nabla \cdot \left(\frac{1}{a_P} \nabla p'\right) = \nabla \cdot \mathbf{u}^* $$

Step 3: 圧力と速度を補正する


$$ p = p^* + \alpha_p \, p' $$
$$ \mathbf{u} = \mathbf{u}^* - \frac{1}{a_P} \nabla p' $$

ここで $\alpha_p$ は圧力の緩和係数だ。


Step 4: その他のスカラー方程式を解き、収束判定を行う


🧑‍🎓

$a_P$ っていうのは運動量方程式の対角係数ですよね。圧力補正方程式の右辺が速度の発散ということは、連続の式の残差をゼロに近づけてるんですね。


🎓

その通り。反復を繰り返すと $\nabla \cdot \mathbf{u}^* \to 0$ となり、質量保存が満たされるんだ。


緩和係数の役割

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$\alpha_p$ の緩和係数ってどういう意味ですか?


🎓

SIMPLE法では圧力補正で隣接セル係数($a_N$項)の寄与を省略している近似があるため、1回の補正では過補正になりがちなんだ。だから圧力には $\alpha_p = 0.3$ 程度、速度には $\alpha_u = 0.7$ 程度の亜緩和(under-relaxation)を適用するのが一般的だよ。経験則として $\alpha_u + \alpha_p \approx 1$ とする流儀もある。


🧑‍🎓

なるほど、近似の代償として緩和が必要になるわけですね。これがSIMPLEの「Semi-Implicit」たる所以ですか。


🎓

そうだ。完全に陰的(Fully Implicit)に解くなら連成ソルバーになるが、SIMPLE法は分離型(Segregated)ソルバーとして非常に効率的なんだ。


Coffee Break よもやま話

ライト兄弟は最初の「CFDエンジニア」だった?

ライト兄弟は1901年に自作の風洞で200以上の翼型を試験しました。当時のコンピュータは? もちろん存在しません。彼らは手作業で揚力と抗力を測定し、最適な翼型を見つけ出した。現代のCFDエンジニアがFluent1発で計算する揚力係数を、ライト兄弟は何百回もの風洞実験で手に入れたのです。

各項の物理的意味
  • 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
  • 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
  • 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
  • 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
  • ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
  • ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
  • 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
  • ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
  • 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
速度 $u$m/s入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意
圧力 $p$Paゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用
密度 $\rho$kg/m³空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C
粘性係数 $\mu$Pa·s動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意
レイノルズ数 $Re$無次元$Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標
CFL数無次元$CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結

数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)

Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa

乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):

k-ε標準5.8h(実験6.1h)
-4.9%
k-ω SST6.0h
-1.6%
RSM6.05h
-0.8%
LES6.12h
+0.3%
実験値6.1h
基準

k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。

簡易計算ツール:流体力学基礎

レイノルズ数 Re = ρuL/μ を計算し、層流/乱流の判定を行います。

CFL数 = u·Δt/Δx を計算し、時間刻みの安定性を確認します。

円管内の層流ハーゲン-ポアズイユ流れの圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴)

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