構造格子 — 理論と支配方程式

カテゴリ: 流体解析 | 2026-01-15
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理論と物理の世界へ

概要

🧑‍🎓

先生、構造格子ってそもそもどういうものですか? 非構造格子との違いがいまいちピンと来なくて。


🎓

構造格子(structured mesh)というのは、計算領域を規則的に配列された六面体(3D)や四辺形(2D)セルで埋め尽くす格子のことだ。各セルのインデックスが $(i,j,k)$ で一意に表現できる。つまり、格子点の隣接関係が暗黙的に決まるから、わざわざ接続情報を格納する必要がないんだ。


🧑‍🎓

隣接情報を保持しなくていいってことは、メモリ効率がいいってことですか?


🎓

その通り。構造格子では隣のセルは常に $(i\pm1, j\pm1, k\pm1)$ だから、データアクセスが連続的でキャッシュヒット率が高い。同じセル数なら非構造格子に比べてメモリ消費は約半分、計算速度は2〜3倍速くなることも珍しくない。


物体適合座標系とメトリクス

🧑‍🎓

でも現実の形状って曲がったり捻じれたりしてますよね? 規則的な格子でどう対応するんですか?


🎓

そこで使うのが物体適合曲線座標系(body-fitted curvilinear coordinates)だ。物理空間 $(x,y,z)$ を計算空間 $(\xi,\eta,\zeta)$ に写像する。計算空間では格子が均一な直方体になるから、差分スキームがシンプルに書ける。


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座標変換のヤコビアン行列が重要で、こう定義される。


$$ J = \frac{\partial(x,y,z)}{\partial(\xi,\eta,\zeta)} $$

このヤコビアンの行列式 $|J|$ がゼロや負になると格子が潰れたり裏返ったりしている証拠で、計算が破綻する。


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ヤコビアンが負になるのはどういう状況ですか?


🎓

典型的には鋭角コーナーの周囲や、格子線が交差してしまった場合だ。格子生成時に $|J| > 0$ を全セルで確認するのが鉄則だよ。


構造格子上のNavier-Stokes方程式

🧑‍🎓

支配方程式は構造格子だと形が変わるんですか?


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物理空間でのNavier-Stokes方程式を計算空間に変換する。保存形で書くとこうなる。


$$ \frac{\partial}{\partial t}\left(\frac{\mathbf{Q}}{J}\right) + \frac{\partial \hat{\mathbf{E}}}{\partial \xi} + \frac{\partial \hat{\mathbf{F}}}{\partial \eta} + \frac{\partial \hat{\mathbf{G}}}{\partial \zeta} = 0 $$

ここで $\mathbf{Q}$ は保存変数ベクトル、$\hat{\mathbf{E}}, \hat{\mathbf{F}}, \hat{\mathbf{G}}$ はメトリクス項を含む変換後のフラックスだ。


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メトリクス項って具体的には何ですか?


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例えば $\hat{\mathbf{E}} = \frac{1}{J}(\xi_x \mathbf{E} + \xi_y \mathbf{F} + \xi_z \mathbf{G})$ のように、座標変換の偏微分係数 $\xi_x, \xi_y$ 等がフラックスに掛かる。これらのメトリクス項を正確に離散化しないと、自由流保存(freestream preservation)が崩れて偽の数値誤差が発生するんだ。


格子間隔の等比配置

🧑‍🎓

壁面近くでは格子を密にしたいですよね。どうやって制御するんですか?


🎓

等比級数(geometric progression)を使うのが基本だ。


$$ \Delta s_i = \Delta s_1 \cdot r^{i-1} $$

ここで $\Delta s_1$ は第1層目の厚さ、$r$ は成長比(growth ratio)。$r = 1.2$ なら各層が前層の1.2倍ずつ厚くなる。壁面側の $\Delta s_1$ は $y^+$ 要件から決定し、成長比 $r$ は1.1〜1.3が推奨される。


🧑‍🎓

成長比が大きすぎるとどうなりますか?


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隣接セル間のサイズ比が大きくなりすぎると、打ち切り誤差が増大して数値拡散が悪化する。特に2次精度スキームでは隣接セルの体積比を1.2以下に抑えるのが望ましいとされている。


Coffee Break よもやま話

F1と空力の戦い

F1マシンは時速300kmで走ると、車重と同じくらいのダウンフォース(下向きの空力的な力)を発生します。つまり理論上、天井に貼り付けて走れる! チームは数千CPU時間のCFDシミュレーションを毎週実行し、フロントウィングの角度を0.1°単位で最適化しています。F1はCAEの技術力がそのまま順位に直結する世界です。

各項の物理的意味
  • 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
  • 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
  • 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
  • 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
  • ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
  • ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
  • 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
  • ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
  • 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
速度 $u$m/s入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意
圧力 $p$Paゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用
密度 $\rho$kg/m³空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C
粘性係数 $\mu$Pa·s動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意
レイノルズ数 $Re$無次元$Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標
CFL数無次元$CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結

数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)

Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa

乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):

k-ε標準5.8h(実験6.1h)
-4.9%
k-ω SST6.0h
-1.6%
RSM6.05h
-0.8%
LES6.12h
+0.3%
実験値6.1h
基準

k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。

簡易計算ツール:流体力学基礎

レイノルズ数 Re = ρuL/μ を計算し、層流/乱流の判定を行います。

CFL数 = u·Δt/Δx を計算し、時間刻みの安定性を確認します。

円管内の層流ハーゲン-ポアズイユ流れの圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴)

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