VOF法(Volume of Fluid) — 理論と支配方程式

カテゴリ: 流体解析 | 2026-01-15
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理論と物理の世界へ

概要

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先生、VOF法って名前はよく聞くんですけど、どういう手法なんですか?


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VOF法(Volume of Fluid)は、非混合の二相流や自由表面流れを扱うための界面捕捉法だよ。Hirt & Nicholsが1981年に提案した手法で、各セルにおける流体の体積分率 $\alpha$ を追跡することで、界面の位置を間接的に表現するんだ。


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体積分率ですか。$\alpha = 1$ なら水、$\alpha = 0$ なら空気、みたいな感じですか?


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その通り。$0 < \alpha < 1$ のセルが界面を含むセルということになる。Level Set法のように界面を符号付き距離関数で表現する方法と違い、VOF法は質量保存が厳密に保証されるのが最大の利点だ。


支配方程式

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VOF法の数式を教えてください。


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まず体積分率 $\alpha$ の輸送方程式がある。


$$ \frac{\partial \alpha}{\partial t} + \nabla \cdot (\alpha \mathbf{u}) = 0 $$

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ここで $\mathbf{u}$ は流体の速度ベクトルだ。二相それぞれの質量保存と運動量保存は、混合体の方程式として書ける。


$$ \nabla \cdot \mathbf{u} = 0 $$

$$ \rho \left( \frac{\partial \mathbf{u}}{\partial t} + \mathbf{u} \cdot \nabla \mathbf{u} \right) = -\nabla p + \nabla \cdot \left[ \mu (\nabla \mathbf{u} + \nabla \mathbf{u}^T) \right] + \rho \mathbf{g} + \mathbf{F}_{\sigma} $$

🧑‍🎓

$\mathbf{F}_{\sigma}$ は何ですか?


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表面張力項だ。CSF(Continuum Surface Force)モデルでは、Brackbillら(1992)の定式化に従って次のように表現する。


$$ \mathbf{F}_{\sigma} = \sigma \kappa \nabla \alpha $$

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ここで $\sigma$ は表面張力係数、$\kappa$ は界面の曲率で $\kappa = -\nabla \cdot \hat{\mathbf{n}}$ だ。界面の法線ベクトルは $\hat{\mathbf{n}} = \nabla \alpha / |\nabla \alpha|$ で求まる。


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密度と粘性は体積分率で加重平均するんですよね?


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そうだ。混合体の物性値は次のように定義される。


$$ \rho = \alpha \rho_1 + (1 - \alpha) \rho_2 $$
$$ \mu = \alpha \mu_1 + (1 - \alpha) \mu_2 $$

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粘性の調和平均を使うケースもあると聞いたことがあります。


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いい着眼点だ。密度比が大きい場合(例えば水と空気で約1000:1)は調和平均のほうが数値的に安定する場合がある。ソルバーによっては選択できるようになっているよ。


界面再構成スキーム

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界面がボケるって話をよく聞くんですけど…


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代数的VOF法(algebraic VOF)と幾何学的VOF法(geometric VOF)の2つの流派がある。


スキーム手法特徴
CICSAM代数的(Compressive)OpenFOAMデフォルト、界面がやや拡散
HRIC代数的(High Resolution)Fluent標準、安定性重視
Geo-Reconstruct (PLIC)幾何学的Fluentオプション、界面シャープだが計算コスト大
isoAdvector幾何学的OpenFOAM v1806以降、高精度
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幾何学的手法のPLIC(Piecewise Linear Interface Calculation)では、各セル内の界面を平面で近似して再構成する。界面のシャープさは段違いだが、3Dの非構造格子では実装が難しい。


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実務ではどれがいいんですか?


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計算コストと精度のバランスを考えると、まずはHRICやCICSAMで試して、界面の拡散が問題になるならPLICやisoAdvectorに切り替えるのが現実的だ。


Coffee Break よもやま話

レイノルズの実験(1883年)——乱流発見の瞬間

オズボーン・レイノルズは、管内の水にインクを流す実験で「層流から乱流への遷移」を発見しました。流速を上げていくと、インクの線がある瞬間にグチャグチャに乱れる。この劇的な瞬間を、レイノルズは数学的に $Re = \rho uD/\mu$ という無次元数で表現した。100年以上経った今も、CFDエンジニアが最初に確認するのはこのレイノルズ数です。

各項の物理的意味
  • 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
  • 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
  • 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
  • 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
  • ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
  • ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
  • 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
  • ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
  • 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
速度 $u$m/s入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意
圧力 $p$Paゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用
密度 $\rho$kg/m³空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C
粘性係数 $\mu$Pa·s動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意
レイノルズ数 $Re$無次元$Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標
CFL数無次元$CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結

数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)

Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa

乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):

k-ε標準5.8h(実験6.1h)
-4.9%
k-ω SST6.0h
-1.6%
RSM6.05h
-0.8%
LES6.12h
+0.3%
実験値6.1h
基準

k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。

簡易計算ツール:流体力学基礎

レイノルズ数 Re = ρuL/μ を計算し、層流/乱流の判定を行います。

CFL数 = u·Δt/Δx を計算し、時間刻みの安定性を確認します。

円管内の層流ハーゲン-ポアズイユ流れの圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴)

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