すすモデル — 理論と支配方程式

カテゴリ: 流体解析(CFD) | 2026-01-15
soot-model-theory
理論と物理の世界へ

概要

🧑‍🎓

先生、すす(soot)はなぜ燃焼CFDで重要なんですか?


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すすは不完全燃焼で生成される炭素微粒子(粒径10-100 nm)で、3つの理由で重要だ。(1) 排出ガス規制の対象(PM:Particulate Matter)、(2) 輻射伝熱への寄与が大きい(火炎の輻射はすすが支配的)、(3) 健康被害(発がん性)。ディーゼルエンジン、航空機エンジン、工業炉でのすす予測は必須の課題だ。


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すすの生成メカニズムを教えてください。


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すすの生成は4段階のプロセスで進行する。

1. 核生成(Nucleation): PAH(多環芳香族炭化水素)の重合により最初のすす核が形成される。C2H2(アセチレン)がPAH成長の主要前駆体

2. 表面成長(Surface Growth): HACA機構(H-Abstraction-C2H2-Addition)によりすす粒子表面に炭素が堆積

3. 凝集(Coagulation): 粒子同士が衝突・合体して大きくなる

4. 酸化(Oxidation): O2やOHによりすすが燃焼・消滅する


Moss-Brookeモデル

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CFDで使われるすすモデルの支配方程式を教えてください。


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Moss-Brooke 2変数モデルは、すす質量分率 $Y_s$ とすす数密度 $N$(粒子数/kg)の2つの輸送方程式を解く。


$$ \frac{d[C]}{dt} = k_a(T)[C_2H_2] - k_o(T)[O_2][C] $$

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すす体積分率 $f_v$ は次式で求まる。


$$ f_v = \rho_s \frac{\pi}{6} d_p^3 N $$

ここで $\rho_s \approx 1800$ kg/m$^3$ はすすの密度、$d_p$ は平均粒径だ。


すす生成の主要パラメータ

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どういう条件ですすが多く出るんですか?


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すす生成の主要因子をまとめよう。


因子すす増加方向理由
当量比過濃($\phi > 1$)酸素不足で不完全燃焼
温度1500-1800 K核生成の最適温度域
圧力高圧衝突頻度増加
燃料構造芳香族 > 直鎖PAH前駆体生成しやすい
滞留時間長いすす成長の時間確保
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1500-1800 Kがすす生成の温度窓なんですね。


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そうだ。これより低温では核生成速度が遅く、高温ではOH酸化が優勢になってすすが燃え尽きる。この「soot formation window」は$\phi$-T マップとして可視化される。ディーゼル燃焼の $\phi$-T マップ(Dec diagram)はすすとNOxの同時低減戦略の基礎になっている。


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すすモデルは化学反応速度論と粒子力学の融合なんですね。


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そうだ。気相のPAH化学とすす粒子のダイナミクスの両方を正確に記述する必要があるから、燃焼モデリングの中でも最も難易度が高い分野の一つだ。


Coffee Break よもやま話

レイノルズの実験(1883年)——乱流発見の瞬間

オズボーン・レイノルズは、管内の水にインクを流す実験で「層流から乱流への遷移」を発見しました。流速を上げていくと、インクの線がある瞬間にグチャグチャに乱れる。この劇的な瞬間を、レイノルズは数学的に $Re = \rho uD/\mu$ という無次元数で表現した。100年以上経った今も、CFDエンジニアが最初に確認するのはこのレイノルズ数です。

各項の物理的意味
  • 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
  • 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
  • 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
  • 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
  • ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
  • ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
  • 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
  • ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
  • 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
速度 $u$m/s入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意
圧力 $p$Paゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用
密度 $\rho$kg/m³空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C
粘性係数 $\mu$Pa·s動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意
レイノルズ数 $Re$無次元$Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標
CFL数無次元$CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結

数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)

Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa

乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):

k-ε標準5.8h(実験6.1h)
-4.9%
k-ω SST6.0h
-1.6%
RSM6.05h
-0.8%
LES6.12h
+0.3%
実験値6.1h
基準

k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。

簡易計算ツール:流体力学基礎

レイノルズ数 Re = ρuL/μ を計算し、層流/乱流の判定を行います。

CFL数 = u·Δt/Δx を計算し、時間刻みの安定性を確認します。

円管内の層流ハーゲン-ポアズイユ流れの圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴)

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Project NovaSolver — CAE実務の課題に向き合う研究開発

「すすモデルをもっと効率的に解析できないか?」——私たちは実務者の声に耳を傾け、既存ワークフローの改善を目指す次世代CAEプロジェクトに取り組んでいます。具体的な機能はまだ公開前ですが、開発の進捗をお届けします。

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